「本業界」に必要なのは「カードショップのデュエルスペース」だ。
millionmaroさんのX上でのポストを見て、そんなことを考えた。小説家の方のようで、本当に本が好きなのだと思う。本好きとしても「なんとなく楽しそうだな」という熱量は伝わってくる。
一方で、新たなビジネスとしての切り口になるかというと、難しい印象を受けた。イベント運営としてなら目がありそうだが、常設するのは確実と言っていいほど困難だろう。バラ売り用の在庫管理、そのための倉庫面積の増大など、メリットよりも課題のほうが大きい。
「書籍の丸亀製麺化」は面白いが、ズレもある
個人的な見解だが、「書籍の丸亀製麺化」は発想として面白い。ただ、紙の本をわざわざ買う人は「完成品としての美しさ」を求めている気がする。自分で製本してください、というのは需要とズレているのではないか、とも思う。
しかも、製本コストを消費者が引き受けたところで、価格はそこまで下がらないだろう。短編バラ売りやマイアンソロジーは魅力的だが、それこそ電子書籍こそが得意な分野ではなかろうか。
どちらかというと本好きのための施策に見えた。「安く買う手段」ではなく「本好きが自分だけの一冊を仕立てる体験」——お菓子の量り売りに近い感覚だと思う。
本はすでに「嗜好品」の領域にある
プレジデントオンラインの飯田一史氏の記事でも、マンガ市場は約7000億円と過去最高水準にある一方で、高校生の雑誌不読率は77.7%に達していることが指摘されていた。デジタルコミック市場が大人向け課金を中心に成長した結果、決済手段を持たない小中高生が取り残され、若年層向けの作品供給自体が少なくなっているという構造的な問題だ。
つまり、小説だけの話じゃない。漫画ですら厳しい。本の中でも「最もカジュアルに消費されていた」はずの漫画が10代から距離を取られているのだから、小説やビジネス書はこれから先もっと厳しい。本という媒体そのものが、好きな人が選んで手に取る「嗜好品」のポジションなのだ。
書籍の価格高騰ももちろん問題だが、それ以前にパイそのものが萎んでいる。縮小する市場に向けてニッチな施策を打っても、届く範囲はどんどん狭くなる一方だろう。「本を安くする工夫」では、読者という母数が減り続ける限り焼け石に水になりかねない。
そもそも「本」についての議論はちょっと面倒で、「紙の本を守りたいのか、本屋を守りたいのか」という前提の整理が要る。
付加価値戦争
紙の本でいえば、コストダウンの余地を探るより付加価値で勝負するほうが筋がいい。
バリューブックスさんの「積読チャンネル」なんかはまさにそれで、面白い。本をレビューで掘り起こして、特典付きで売る。本そのものに「ここで買う理由」を乗せるパワープレーだ。今の「積読チャンネル」の規模感でいえば、あのチャンネルで紹介された本、というだけでブランディング価値が付くところまで来ている。
ただし、他社が真似しにくい分、完全に属人化しておりスケールしないのが難点だろう。ある種のアイドルビジネスと構造が同じだ。話がブレてしまうが、飯田さん頼りな部分がビジネスとしては単一障害点になっている。
人件費——編集・出版の人件費を含む——も物価もこの先下がる見込みはない。安くする努力より「高くても欲しい」を作るしかないのだ。
本屋の生存戦略
本屋のほうは、生き残りの手札がいくつか出てきている。利益率の高い飲食との併設はすでに広がっているし、最近だとコメを売る書店も話題になった。本単体の薄利を別の商材で補う「抱き合わせ業態」の発想だ。人件費の問題に対しては無人書店化という選択肢もある。固定費を削れるだけでなく、深夜営業や小規模展開のハードルも下がる。
ただ、どれも「本屋という場所に足を運ぶ理由」がないと成立しない。だからこそ、本好き同士がふらっと集まっておしゃべりできるコミュニティの場になれたら、それはECには絶対に真似できない本屋だけの武器になると思う。
オフラインコミュニティの開発
批判ばかりな気がするので、自分の考えも1つ。
「本業界」に必要なのは「カードショップのデュエルスペース」だ。
カードゲーマーが自慢のデッキを持ち寄って対戦するように、本好きが自分の「推し本デッキ」を持ち寄って見せ合う。
飲食可のオープンな空間で、隣の席の人に話しかけてもいいし、近い嗜好の人を見つけて語り合ってもいい。本について熱く議論することが、そのまま自然な販促になる。その代わり誰かに話しかけられてもいいファイトクラブだ。ガチンコでぶつかろう。
本なんてたくさん持ち歩くかよ、と思うかもしれないが、「本好きはおバカ」だから持ち歩きたい人も多いはずだ。むしろ「本を携えて出かける口実」になる。「俺のデッキ見てよ」「お前のは?」——こういう会話ができる場所が楽しくないわけがない。
図書館じゃ騒げない。だからこそ、デュエルスペースくらいのテンションでガヤっても許される場所が、飲食店併設の本屋の近くにあったらいいなと思っている。
おわり
今のこの時代、敢えて紙の本が好きでいてくれている人たちは、本について語りたいのだ。読んで終わりではなく、誰かと共有したい。だからこそ本業界の生き残りには、コミュニティの場としての機能が欠かせないと考えている。
対戦よろしくお願いします。